
先日、恵比寿アトレに行った。恵比寿に来たのはこれが初めてで、アトレには地下鉄の乗り換えのために立ち寄っただけだったので、滞在時間は五分もなかったと思う。広告ハンガーに施された、月をモチーフにした飾りがお洒落だ。グーグル検索によると、恵比寿アトレの設計は、ジェイアール東日本建築設計事務所によるものらしい。生活の中に何気なくあるもののデザイン性が高いと、無性に嬉しくなる。
下りエスカレーターまでたどり着くと、私は東京メトロ日比谷線に乗り換えるため、それに乗って下に向かった。その時、外のベンチに座っている、髪の長い中年の女性らしき人物が目に入った。もしかしたら、男性だったのかも知れないが、その時は女性だろうと思った。その人物はベンチの上にたくさんのゴミ袋を置き、何かを食べていた。だが、私の目を引いたのは、彼女または彼の周りに集まってくるハトの数だった。空からたくさんのハトたちが、その人のいるベンチめがけて飛んできていた。その人の周りには、十羽かそれ以上のハトが群がり、そのうちの一羽は、その人の手のひらに載せられた食べ物をついばんでいた。しかし、その人はハトの行動など全く気に留めずに、手のひらの上のお菓子か何かを、自分でも食べていた。
いちむらみさこの『ホームレスでいること』を読んで、あえてホームレスでいることを選択している人がいるのは知っていたが、恵比寿で見かけたその人は、ハトと食べ物を分け合っていることで、一際、異彩を放っていた。その人の姿こそ、動物であるニンゲンとして正しいような気もした。他人の視線も、ハトのくちばしも怖い私には到底真似できないが、あの時、あそこに居合わせて、この光景を目撃できて良かったなと思った。